旧安田楠生邸

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肌を刺すような陽射しの中、自転車を木陰にとめるとボランティアさんが優しい声をかけてくれました。
旧安田邸、この住まいは震災や戦火を経てもなお凛として大正の空気そのままに迎え入れてくれます。

入口では、襖や調度品等を傷つけることのないよう荷物を預け、靴下を忘れた人には貸出してくれます。
大切に住み継がれた邸宅を守るよう、文字通り畳のへりにまで気を遣い大切にケアされています。

どの部屋も時を経た建築物ならではの美しい重厚感があり、採光、通風、機能性を備えながらも美しく調和された設えは新鮮でさえあります。

そして2階の客間で開け放された窓いっぱいに広がる緑に言葉を失う。
8月の眩しい陽が濃い影を作る庭園の樹々の隙間から、一斉に降りそそぐ蝉の音。
ここには街の喧騒も届かず、空もビルの輪郭に切り取られてはいない。
ボランティアさんの説明する声音からも、この邸宅を慈しんでいる気持ちが伝わる。

ゆるゆると心地よいひと時を過ごせました。今度は紅葉の季節に訪れたいと思う。

文京区千駄木5-20-18
千代田線千駄木駅下車徒歩6分
本郷保健サービスセンター隣

【説明版】
東京都指定名勝 旧安田楠雄(やすだくすお)邸庭園

所在地 文京区千駄木5-20-18 指定 平成10年3月13日

旧安田楠雄邸庭園は、「豊島園」の創始者で実業家の藤田好三郎によって作られ、大正8年(1919)に家屋が竣工し、その後庭園が完成しました。大正12年の関東大震災後、安田善四郎が買い取り、平成7年に善四郎長男の楠雄氏が亡くなるまで大切に住み続けられ、平成8年に公益財団法人日本ナショナルトラストに寄贈されています。安田善四郎は、旧安田財閥の創始者である安田善次郎の女婿です。

当初約1800㎡であった(現在は約1500㎡)敷地は東西に長く、雁行式に配した日本家屋に沿って、前庭・主庭・中庭・坪庭の4つの庭園が配されています。特に南側の主庭は滝石組を含む東西16mある”流れ“を主景とし、効果的に配された樹木が絵画的な美しさを添え、各室からはそれぞれに異なる景色を楽しむことが出来ます。建物も、洋風の応接間を併せ持つ近代和風住宅であり、照明や家具も当時のままに残されています。建物と庭園とが共に関東大震災と第2次世界大戦の被災を免れ、今日まで受け継がれてきた貴重な文化財です。

平成26年3月建設 東京都教育委員会

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